人は立って歩く動物ですので、下肢から心臓へと上方へ血液が返る通路である下肢静脈にはいつも重力という負担がかかっています。静脈は単なる筒ではなく、重力に逆らって効果的に血液が流れるように、内腔に心臓の方へ流れるような一方弁を有しています。そもそもの原因はこの静脈の中の一方弁がこわれてしまうことです。
一方弁がこわれると、重力に負けて静脈の血液が下方へ落ちてしまう逆流を生じ、下肢静脈の血液が心臓へ返りにくくなり、低いところに血液が多くたまってしまい、それによって症状が出ます。よく皆様が勘違いされますが、いわゆる血栓とは違いますし、静脈がつまってしまうわけでもありません。動脈硬化とも関係ありません。
2008年から2022年の15年間の5000肢を超える豊富な下肢静脈瘤治療経験をもとに、できるだけ再発のもとになるような病変を残さないように、十分な術前エコー検査をもとに手術方法を考え、患者様に説明、相談の上、方針決定をします。現在では、下肢静脈瘤手術のほとんどは日帰り手術で可能となっています。
■当院の下肢静脈瘤の治療実績
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
総治療肢数 | 535 | 567 | 558 | 516 | 509 | 375 | 372 | 387 |
うち 日帰り | 477 | 531 | 538 | 506 | 500 | 371 | 369 | 384 |
うち 入院 (他院で草川手術) | 58 | 36 | 20 | 10 | 9 | 4 | 3 | 3 |
伏在静脈ラジオ波焼灼術 | 340 | 398 | 407 | 324 | 263 | 51 | 30 | 34 |
伏在静脈ストリッピング | 109 | 65 | 42 | 27 | 15 | 11 | 4 | 3 |
伏在静脈グルー閉鎖術 | 133 | 148 | 152 | |||||
下肢静脈瘤レーザー焼灼術 | 89 | 157 | 113 | 98 | 120 | |||
重症例のSEPS (伏在と同時) | 12(1) | 13(7) | 8(0) | 3(0) | 0 | 3 | 3 | 3 |
その他 | 75 | 98 | 101 | 73 | 74 | 64 | 89 | 75 |
今まで多くの下肢静脈瘤治療施設を見学させていただき、学会参加、発表なども行って知識を広め、また全国の同業の優秀な先生方との横のつながりも多く、相談させていただけるので、むずかしい症例でもしっかりとバックアップできるように準備しています。手術後もエコー検査で綿密なアフターケアーを行い、患者様と相談の上、適宜必要な追加治療を行っています。
治療については、以下のようなことを実行しています。
1.豊富な治療選択肢
再発をできるだけ抑える治療を行ったり、再発に対する適切な対処をするためには、エコーによる正確な診断技術と豊富な治療の方法を身に着けていなくてはなりません。
現在の治療はカテーテルを用いたものが中心になっていますが、その中にもいろいろなものがあってそれぞれに特徴があり、さらにカテーテル治療以外の治療にも有効な点が多々あります。
定型的な病態だけでなく、非定型的な病態に対処したり、より再発させない治療をするためには、これらのすべての治療に精通していて、その中からそれぞれの患者さんに最適の治療を、正確な診断の元に提案できなければなりませんが、それができるように準備しています。
2.豊富な麻酔方法の選択肢
現在クローズアップされているカテーテル治療では、痛くないとか、軽く済むということを売りにしている場合がありますが、そればかりを必要以上に優先すると、病変が残ったり、再発が起こったりしてしまいます。
カテーテル治療の標準麻酔は、処理する静脈の周りへの局所麻酔とされていますが、実際にはこの麻酔をするときの針の痛みが強く、切除すべきふくらはぎの付属静脈瘤や逆流している静脈も、痛がるからと残してしまいがちです。
神経ブロックという麻酔を細い針ではじめに行っておくと、焼灼術で焼灼する静脈部の痛みだけでなく、局所麻酔の針の痛みや、付属静脈瘤、逆流静脈の処理時の痛みに対する除痛にも大変効果があり、痛みを気にせず病変を残さない手術が可能となります。
神経ブロックを行う技術と経験を持ち合わせている施設は、全国的にまだ多くはありません。
また、患者様の希望に応じて、鎮静剤の注射を使って、軽く眠っている間に手術することも可能です。
皆様の下肢静脈瘤に対する認識や疑問はこちら
基本的に手術でやることは以下の二つです。
【1】一方弁がこわれた静脈を取ってしまうか閉塞させてしまう
【2】上記の静脈逆流で膨らんだ外から見える静脈瘤を取ってしまう
下肢の静脈系は図のようになっていますが、【a(深部静脈系)】は取ってしまうことはできませんので手術を行いません。
【1】の手術を行う静脈は図の【b(表在静脈系)】の静脈です。
【b(表在静脈系)】の幹状の血管のうち、足の近くの内側から下肢の内側を上行し、下肢の付け根で【a(深部静脈系)】に流れ込むのが、大伏在静脈本幹、足の近くの後側から下腿の後側を上行し、膝の裏で【a】に流れ込むのが、小伏在静脈本幹です。これらは皮膚の奥で筋肉の上の深さを通っているので、外からはわかりにくいことが多いです。
【b】の静脈のうち、一方弁が閉まらずに逆流する部分だけに手術を行います。
【1】の手術には、当院では以下の治療法が選択できます。いずれも保険診療です。
【b(表在静脈系)】の静脈を、その真上の小さい2-4個の1-1.5cm(縫合1針分)の傷から剥離して、その間の静脈を下記のようなストリッピングワイヤーという道具を用いて抜去する方法です。ほとんどは図に示した内翻法を用います。
【b(表在静脈系)】の病変静脈の一番下を穿刺して、カテーテルを内腔に挿入し、十分な局所麻酔下に、内腔から静脈をカテーテル先端で熱変性させ、閉塞させるという比較的新しい治療です。ラジオ波、種々の波長のレーザーがありますが、ラジオ波と新型のレーザーでは治療成績は同じくらい優秀です。ただ、後述するように、焼灼の特性の違いから、それぞれに適した病変は少し異なります。
また、足に近い部分の焼灼を行うと永続的な軽い感覚障害が当該部に起きることがあると報告されています。
あまり浅いところへ行うと、術後のつっぱり、皮膚色素沈着、皮膚熱傷の原因になります。
①ラジオ波
写真のような装置で、カテーテルの先端の7cmの金色部分が熱くなって、内腔側から焼灼します。この先端部分が血管の内側と接触することで焼灼がなされます。7cmずつ尺取虫のように順次焼灼していくので、通常範囲の直線病変を短い時間で焼灼するのには最も便利ですが、いびつに膨らんだ病変や、異常に大きい径の病変では、熱くなった部分と血管の内腔が接触しにくいため、焼灼が不十分になることがあります。また、短い距離の焼灼は、熱くなる部分がはみ出てしまうのでできません。
②新型レーザー
いくつかの業者から製品が出ていますが、当クリニックでは写真のような装置を採用しており、カテーテル(ファイバー)の太さもいろいろありますが、1.0mm径のスリムファイバーを使用しています。これは、ラジオ波や太いレーザーファイバー挿入で予め必要となる、ある程度の長さの太い鞘を必要とせず、やや太めの点滴留置針から挿入できることが最大の利点です。定型的な長めの直線病変を焼灼するのにはラジオ波よりやや時間がかかります。先端のリングから出るレーザーに血液の成分があたると発熱します。したがって非定型的な短い病変(再発性病変や不全穿通枝;後述など)の焼灼に向いています。ラジオ波焼灼との違いは、ファイバー先端近くからリング状に出たレーザーが、静脈内にある水に当たって熱を発するため、血管の内側と接触していなくても焼灼ができるので、いびつに膨らんだ病変や径の大きな静脈でも焼灼でき、また連結する太めの逆流側枝静脈の合流部にも焼灼ができる可能性があります。
カテーテル挿入口の局所麻酔だけで、【b(表在静脈系)】の病変静脈の一番下を穿刺してカテーテルを内腔に挿入し、先端から瞬間接着剤(グルー)を注入して閉塞させるという新しい治療です。写真のような、注入ガン部分とカテーテル部分からなります。比較的定型的な直線病変にのみ適応できますが、足に近い部分を治療しても感覚障害が起きる可能性はなく、局所麻酔もカテーテルの入口のみで済むので、両側同時の手術も行いやすくなります。約5%に、グルー注入域に沿った炎症が起きますが、ほとんどの方は1か月でほぼ消退します。まれに難治性のアレルギーが起きる場合があります。皮膚の外からみえる浅い部分に行うと、その形が残ってしまいます。
【1】に対して、どの治療を選択しても、外から見える静脈瘤(上記の【b(表在静脈系)】からの逆流が皮膚の直下の側枝に逆流し、膨れてできる)に対する手術を通常同時に行います。この部分には蛇行が強くてカテーテルは入らず、しかも熱を加えると皮膚がやけどしてしまいますし、グルーを入れると瘤がそのままの大きさで残ってしまいます。
以下の方法があります。
①静脈瘤切除
治療は2-3mmの小さい傷で専用のへらとフックを用いて静脈瘤を皮膚の外へ吊り上げ、牽引して取ります。傷はテープでとめるだけで、縫合は必要なく、抜糸も不要です
②エコーガイド下フォーム硬化療法
点滴の針を何か所かに刺して、フォーム硬化剤(硬化療法としては現時点で最も効果が高い)を注入し、エコーで見ながら硬化したい部位に誘導する。治療後3日間の圧迫処置が必要となります。
【治療例】74歳男性、ラジオ波焼灼術
【治療例】69歳女性、ラジオ波焼灼術
伏在静脈に対する上記の各治療には特徴があり、利点、欠点があります。どの治療で行うかの判断材料となります。以下の表に記します。
ストリッピング | |
---|---|
治療の概要 | 逆流部分両端を皮膚切開し結紮切離、その間を牽引除去 |
手術侵襲 (皮膚) |
・
1-2針の縫合を要する皮膚切開が最低2か所必要
・
痛みはカテーテル治療よりは少し大きい
|
片脚手術時間 | 45-75分 |
麻酔 | 神経ブロック、大腿下腿の広範局所麻酔、静脈麻酔 |
得意な病変 |
・
深部静脈接合部にカテーテルで直せない病変がある時
・
病変治療部の大部分が非常に浅いところにある時
|
苦手な病変 |
・
周囲に炎症性の癒着が強い病変
・
肥満の方の場合
|
標準的な費用 | 約35,000円(片脚3割負担の場合) |
特有の注意点 | 術中出血 |
ラジオ波焼灼 | |
---|---|
治療の概要 | 逆流部分の静脈内腔を、挿入したカテーテルの熱で約7cmずつ順に焼きつぶす |
手術侵襲 (皮膚) | やや太めの鞘の挿入が必要だが、縫合の必要はない |
片脚手術時間 | 20-35分 |
麻酔 | 神経ブロック、大腿下腿の広範局所麻酔、(静脈麻酔) |
得意な病変 |
・
通常の定型的な病変で、下腿中部以下に及ばないもの
・
下腿の下の方を焼灼すると感覚障害のリスクがある
|
苦手な病変 |
・
非定型的な病変
・
皮膚から浅い病変
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標準的な費用 | 約35,000円(片脚3割負担の場合) |
特有の注意点 | 深部静脈接合部血栓 |
レーザー(スリムファイバー)焼灼 | |
---|---|
治療の概要 | 逆流部分の静脈内腔を、挿入したカテーテル先端周囲のリングから出たレーザーが血管内のものに当たって出た熱で、カテーテルを引きながら順に焼きつぶす |
手術侵襲 (皮膚) | 鞘よりかなり細い、太めの血管留置針から挿入可能で、縫合の必要はない |
片脚手術時間 | 25-40分 |
麻酔 | 神経ブロック、大腿下腿の広範局所麻酔、(静脈麻酔) |
得意な病変 |
・
短い距離の病変や、それが複数存在するもの、
・
再発性の病変など、非定型的な複雑病変、
|
苦手な病変 |
・
長い距離の病変
・
通常の定型的な病変はラジオ波より時間がかかる
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標準的な費用 | 約35,000円(片脚3割負担の場合) |
特有の注意点 | 深部静脈接合部血栓 |
グルー(瞬間接着剤)閉塞 | |
---|---|
治療の概要 | 逆流部分の静脈内腔を、挿入したカテーテルの先から瞬間接着剤を出して順に詰める |
手術侵襲 (皮膚) | やや太めの鞘の挿入が必要だが、縫合の必要はない |
片脚手術時間 | 30-45分 |
麻酔 | カテーテル挿入部の局所麻酔のみ、(静脈麻酔) |
得意な病変 |
・
通常の定型的な病変、両側同時治療
・
下腿の下の方に施行しても神経を痛めることがない
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苦手な病変 |
・
非定型的な病変
・
皮膚から浅い病変
・
径の大きな病変
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標準的な費用 | 約48,000円(片脚3割負担の場合) |
特有の注意点 | 異物由来の炎症 |
【1】【2】に加え、その他に、穿通枝(図では交通枝と表示)という【a(深部静脈系)】と皮膚の近くの間をつなぐ静脈の、深部へ向かう一方弁が壊れてしまうと、逆流が生じて不全穿通枝といわれ、ふくらはぎのものではふくらはぎ下部の皮膚の黒っぽい硬化や、潰瘍(皮膚に穴が開く)の原因になることが知られていて、治療が必要になることがあります。
この不全穿通枝の治療にも治療選択肢があります。
①内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術 (SEPSと呼んでいます)-成功率90%
限られた入院できる施設でのみ保険診療でできる手術で、施行できる病院へ紹介の上、できれば180肢の治療経験のある私自身がその病院へ赴いて一緒に手術を行っています。県外になることが多いです。
②経皮的不全穿通枝レーザー焼灼術 (PAPsと呼んでいます)-成功率90%
基本的に、SEPSした後の再発不全穿通枝や、SEPSで切れなかった不全穿通枝に対して当クリニックで日帰り手術にて行っていますが、諸々の事情があって遠方の病院での入院が難しい方に関しては個別に相談に応じています。200本以上の不全穿通枝の治療経験があり、自分の成績も出しています。上記のレーザースリムファイバーを使用しています。
③エコーガイド下フォーム硬化療法 (UGFS)-1回での成功率42%, 繰り返して62%
手軽に安価に繰り返しできる治療ではありますが、成功率が他の治療と比べて低いということは否めず、閉塞せずやむなく他の治療へ移行することもよくあります。
内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術 (SEPS)
再発した静脈瘤は手術で治せないのですか?
エコーで原因を良く調べ、それに対する手術を考慮します。
再発の原因について、正確な診断ができ、十分な治療の選択肢を持っている施設は決して多くありません。
私には、今まで約500肢の再手術経験があり、学会や論文でも発表を行っておりますので、遠慮なくご相談ください。
術後合併症については、来院後、手術を決められた方に説明します。
おおたクリニック 血管外科、下肢静脈瘤日帰り手術担当 草川 均
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