難治性静脈うっ滞性皮膚潰瘍、皮膚炎を診察される皮膚科の先生方へ

下腿難治性静脈うっ滞性皮膚潰瘍、皮膚炎の原因として主に考えられることは、以下の二つです。

① 静脈の通過障害(狭窄、閉塞、もしくは弁不全による逆流)

② 下腿筋ポンプ不全

 どちらにも、弾性ストッキングなどによる圧迫療法は有効であり、まず行うべき治療ということになります。

 ①の中には、外科的治療にて劇的に改善する病態があり、それがなされずに放置されるケースがありますので、これについて述べます。圧迫療法だけで潰瘍は一旦治癒することも多くありますが、病変を残したり、新しく病変ができてくると、潰瘍再発率が高くなります。

) いわゆる下肢静脈瘤

 下腿に(側枝)静脈瘤が見られる場合には、伏在静脈の逆流が存在する確率が高く、この伏在静脈に対する外科治療が有効です。

) 静脈瘤が見えない下肢静脈瘤

 下腿にあまり側枝静脈瘤が見えなくても、伏在静脈の逆流や不全穿通枝によって静脈圧が上昇し、皮膚病変を来すことがあります。しかし、外見的には皮膚病変があるだけで、下肢静脈瘤とは診断しにくいのが現実で、必要な治療が行われずに放置されてしまいがちです。伏在静脈不全穿通枝に対する外科治療が有効です。

 しかも、一般的に下肢静脈瘤の専門医でも、はやりの伏在静脈の診断や治療だけを偏重して行う傾向があり、不全穿通枝に対しては、治療ばかりか、知識がなくて診断さえもできない、行わない施設が多くあるというのが悲しい現実です。このような施設では、伏在静脈の治療だけが行われ、潰瘍は治らずに、もしくは再発して再受診しても、静脈は悪いところはないので圧迫療法を続けなさいと言われてしまうだけです。たとえ、不全穿通枝が存在していたとしても、、、

 最近は近隣の施設の皮膚科では上記のような件に関して深く理解していただける先生方が増え、相談を受けることが増えております。一方、やや離れた(隣接した県などの)施設からの紹介、治療依頼もあるものの、これは幸運にも、このような病態をきちんと理解してみえる血管外科医に受診して診察を受け、精査の上診断された方々のみです。まだまだ必要な治療を受けずに放置されている患者さんが多く埋もれているものと憂慮しています。

今までに当施設で経験した事例を列挙してみましたので、思い当たる患者さんがありましたら、遠方からでもいつでもご相談ください。診察の上、指導や必要な治療をさせていただきます。

事例1)

 下腿下部に痛みとかゆみを伴う皮膚色素沈着硬化があり、3年間近医皮膚科で外用剤の投与を続けられてきたが、全くよくならず、違和感が増してきて心配になり、大きい病院の皮膚科を介して当クリニックへ紹介され、下肢静脈エコーで大伏在静脈の全長逆流を認め、ラジオ波焼灼術を施行、施行1か月で症状は劇的に改善した。

事例2)

 当クリニック受診5年前に近医で下肢静脈瘤の治療(伏在静脈血管内焼灼術)を受けた。その時すでに下腿下部に色素沈着があったが、治療した施設では圧迫療法を続けていくように指示された。しかし、1年前に色素沈着部を机の角にぶつけたのを契機に潰瘍ができ、1年間治らず、インターネットで検索して当クリニック受診、下肢静脈エコーで潰瘍上部に不全穿通枝を認め、経皮的不全穿通枝レーザー焼灼術を施行、潰瘍は2か月で治癒し、再発は今まで2年間ない。

事例3)

 当クリニック受診7年前に近医で急性下肢深部静脈血栓症と診断され、以降抗凝固療法を行われている。その入院の時から下腿下部に色素沈着硬化が見られ、圧迫療法を真面目に継続していた。2年前から色素沈着部に潰瘍ができ、時々よくなっていたが、結局どんどん拡大し、同医での下肢静脈エコーで潰瘍辺縁に2本の不全穿通枝が指摘され、血栓後症候群による深部静脈逆流に続発したものと診断され、不全穿通枝の治療依頼で当クリニックへ紹介された。経皮的不全穿通枝レーザー焼灼術を施行、潰瘍は3か月で治癒し、現在まで3年間再発はない。