かかりつけ医の役割
(1)「かかりつけ医」とは
まだ世間ではあまり理解されていないようですが、「かかりつけ医」とは診療所において病気の治療をするばかりでなく、日常の診察の中で健康診断などによって予防的に患者さんの健康を守り、予防注射の実施や在宅医療、家庭看護、福祉介護などの相談に乗り、日常生活において患者さん自身やその家族の健康相談の窓口となり、「かかりつけ医」の専門外の病気の場合や、高度医療が必要な場合には、患者さんの情報を添えて、適切な医療機関に紹介してくれる医師の事を言います。
ですから「かかりつけ医」は地域に密着して診療活動をしているため、患者さんが今までどんな病気で、どんな薬を飲んでいたかとか、日頃の体調のこと、どういう仕事をしていてどんな食事の好みかを知っていたり、家族構成から社会的な状況などを知っていたりするため、家族全員の病気について、より的確に診断や治療に当たる事が可能となります。
一方、生活習慣病のような慢性的な病気は、症状が出てからでは手遅れである場合が多く、早期発見が大切です。しかし、この様な病気が発現する時期は、社会的に重要な地位にあって、ゆっくり病院に掛かっている時間が無く、身体の異常に気が付いていても先延ばしにして、ついつい無理をしてしまう事が多いものです。
ところが、総合病院に行こうとすると待ち時間が長く、遠くまで通うのもおっくうになり、ついつい診察を受ける時期を失って治療に手間取る事が多くなります。 そんな時こそ、手近で気軽に診てもらえる近くの診療所に相談される事をお勧めします。でないと手遅れになって必要以上に治療に時間を取られてってしまい、却って大切な時間を失ってしまう事が有りえるのです。 しかも誰もが最初から総合病院や大学病院に行こうとすると、それらの病院は外来診療に時間がとられ、入院患者さんへの時間が取れなくなり、本来の目的である高度医療の質の低下を招いてしまいます。
そのようなことがないよう、近所に気兼ねなく話のできる「かかりつけ医」を持つことはとても大切です。 大抵の診療所では総合病院や大学病院とも互いに連携しているので、必要に応じて適切な総合病院を紹介してくれます。また、医薬分業が進むにつれ、「かかりつけ薬局」との連携も「かかりつけ医」の重要な役目となっています。
まず、近所の話しやすい先生に「私のかかりつけ医になってもらえますか?」と声をかけて下さい。きっと、そのお医者さんはあなたのことをいつも気にかけてくれるようになるはずです。
(2)診療所(医院)と病院の役割の違い
医療機関にはそれぞれに役割があります。ベッド数が20床以上のところは病院、19床以下もしくは無床のところを診療所(医院)としています。診療所(医院)は軽症や慢性疾患の初期や安定期の患者さんが通院して治療を受ける場所であり、総合病院は特殊な検査や慢性疾患の治療導入期や増悪期で、入院が必要な患者さんの治療が主な目的です。なかでも大学病院などは高度な医療を必要とする重症度の高い患者さんを主に治療するように役割分担が出来てきました。その他にも、地域密着型の中小規模病院が有り、病気の種類や程度など、患者さんのニーズに合わせて細やかに対応する事ができるようになりました。
ところが、ほとんどの大病院では今までの慣例により、軽症の患者さんもたくさん訪れてしまい、限られた外来診療時間内で診察を済ませるために「2時間待って5分診療」のようなケースを引き起こしています。そればかりか、外来診療で疲れ切ってしまった医師は、充分な余裕を持って入院患者さんの診療に当たれないことが問題となっています。
ですから風邪などの軽い病気の患者さんは地域の診療所利用していただくように、役割が分かれてきました。また総合病院の問題点として、大学病院から医師の派遣を受けているために、主治医が変わってしまうことがあり、長い経過のうちには意思の疎通がとりにくくなることも考えられます。しかも高度医療が専門のため診察料が割高になりがちで、前に受診した医療機関と検査が重複することもあり無駄が多くなります。或いは、検査のためだけで、予約、検査、結果 説明と何回も通院された経験のある方もたくさんいらっしゃると思います。
精密検査やより高度な治療が必要となったときは、「かかりつけ医」に適切な指示や紹介をしてもらい病院を受診すれば良いのです。最近では、総合病院に受診する際「かかりつけ医」の診療情報提供書(紹介状)を持って受診すると、前もってカルテを出してもらったりして、スムーズに診察を受けることができるようなシステムを導入している病院も有ります。
ただ、「かかりつけ医」を選ぶ理由のひとつとして、いつでも診てもらえるという期待があるかもしれません。確かに開業医の多くは往診や訪問診療もしています。しかしひとりで仕事をしている医師が、たくさんの患者さんを相手に24時間いつでも対応することは困難なことが有ります。率直に話をして「かかりつけ医」に相談してみてください。きっと状況が打開し、良い人間関係が生まれ、気軽に相談できる「かかりつけ医」とめぐり遭う事が出来ると思います。
(3)「かかりつけ医」はゆりかごから墓場まで
妊娠/出産
赤ちゃんの「かかりつけ医」はもう決まりましたか? 近くにあって、お散歩や買い物の途中に気軽にみてもらえ、何でも相談できる先生が、赤ちゃんにとっての「かかりつけ医」です。
学齢期
団体生活の始まりです。冬場のインフルエンザの予防接種や、ポリオや結核、日本脳炎などの感染症は予防接種が守ってくれます。 また、心身の成長期でもあり思春期という精神的に不安定な時期を迎えます。他人と比べて密かに悩んで落ち込む子もいます。こんなときこそ早めに「かかりつけ医」に相談して下さい。
結婚
「結婚おめでとう今日から私があなたのかかりつけ医です」幸せなファミリーの第一歩は健康への取り組みから・・。病気は精神的にも時間的にも経済的にも幸せな家庭の敵です。 かかりつけ医も夫婦単位が良いでしょう。
壮年期
心理的な社会的なストレスの高まる年代でもあり、心と体の両面 からの治療が大切です。体に変調を感じたら、気心の知れた、いつもの「かかりつけ医」にすぐ見てもらいましょう。
老後
「かかりつけ医」は寝たきりにならないための細やかな健康指導や、管理をしてくれます。また寝たきりになった場合でも、介護保険の適応を受けるための「意見書」を書く事によって、ケアマネージャーを通 して訪問看護、訪問介護などの在宅医療のお手伝いもしてくれます。
(4)「かかりつけ医」がいるとこんなにメリットがあります!
1.待ち時間が短く受診の手続きも簡単で、じっくり診察してくれる。
2.入院や検査が必要な場合など、適切な病院・診療科を指示、紹介してもらうことができる。
3.食事面など、日常の健康管理のアドバイスをしてくれる。
4.家族の病状・病歴、健康状態を把握しているので、いざというときにすぐ対応してくれる。
5.ふだんの状態を知っているため緊急のときに、適切で素早い対応ができる。
6.「はしご受診」がなくなり、薬の重複による危険や、医療費のムダがなくなる。
7.訪問看護ステーションに対し、看護婦派遣の要請をしてくれる。
(5)初めてかかりつけ医を訪ねるときは・・・
1. 健康保険証を忘れずに。
2. 診察や検査を受けやすい服を着ていきましょう。
3. お年寄りの通院には付き添って、一緒に説明を受けてください。
4. 緊急時以外には診察時間外受診を避けましょう。
(6)受診時にメモしたり、準備したりすることがら
1. 何処が、何時から、どのように具合悪いかまとめておく。
2. 排尿、排便、アルコール歴、タバコ歴、生活習慣などメモしておく。
3. 今までの病歴、健康診断の結果を準備する。
4. 現在服用中の薬の名前、薬や食べ物のアレルギーの有無を調べておく。
5. 血縁関係の家族の病歴や病死の原因も出来るだけ調べておく。
6. 職業、勤務内容、生活習慣など説明できるようにしておく
(7) 最後に
売薬で症状が軽快しても、病気が治癒したかどうかは分りません。
自己判断せず、かかりつけのお医者さんによく相談して健康管理をしましょう。